はじめに:研究生と大学院生の応募と受け入れについて
- 渡辺は,大阪大学大学院経済学研究科経営学系専攻で大学院生・研究生の研究指導を行っています.また,大阪大学経済学部でも学部生・研究生の研究指導を行っています(以下では,大阪大学大学院経済学研究科経営学系専攻や大阪大学経済学部など私が研究指導を行っている課程を,弊所と呼ぶことがあります).
- 渡辺研究室では,研究生・大学院生の受け入れを積極的に行っています.
- ただし,私の元には,年間,百数十件の受入依頼や応募が届いています(その中には,宛先だけ変えて,あとはコピー&ペーストで,メールアドレスを公開している教員に対して手当たり次第に送られたと思われる受入依頼のメールがかなりの数含まれます).
- そのため,全ての人に対して,個別に対応することは出来ませんので,以下の指示を良く読んでから連絡・応募をして下さい.
- 以下に記載するのは,外部から大阪大学大学院経済学研究科へ進学して,渡辺を指導教員にすることを検討している人に対するメッセージです.既にあなたが大阪大学大学院経済学研究科の大学院生であり,指導教員の長期外国出張や退職,もしくは,あなたの研究テーマ変更などの理由により,指導教員を私に変更することを考えている場合は,以下によらず,柔軟に対応します.早めに相談して下さい.
修士課程への進学を目指して,学部研究生として秋(10月)の入学を希望する場合
- 以下の2点に注意して下さい.
- 弊所では,学部生も修士学生も4月入学のため,カリキュラムもそれを前提に組まれています.10月入学の場合,年度の途中からゼミに加わることになるため,専門分野と研究の進め方について,他の学生と一緒に指導を受けられるだけの前提知識が入学時点で必要です.
- 研究生としての受け入れは,大学院への合格を約束するものではありません.特に,10月に研究生として入学する場合は,大学院の冬季入試までの期間が短いため,研究生を半年で修了して阪大の大学院へ進学することを計画していたとしても,あなたの思い通りにならない確率が相対的に高くなります.この点を予め考慮に入れた計画を立てて下さい.
修士入学時点で必要な統計学・計量経済学の知識について
私の領域におけるほとんどの論文は,定量的な手法を用いた仮説検証型で書かれています.経済学研究科経営学系の他のかなりの領域においても同様です.そのため,あなた自身は定性的手法で研究を行うのだとしても,統計学・計量経済学の一般教養・大学学部レベルの知識がなければ,論文を理解出来ず,授業についてこられません(注:量的分析で用いられる技法は年々高度になっているため,ここで挙げるレベルの知識だけだと,分析を完璧に理解したり,分析を遂行したりすることは多くの場合,難しいですが,これらの知識さえなければ,何をやろうとしているかのイメージさえつかめず,直観的に理解することさえ難しいだろうということです).
例えば,思いつくままに列挙するならば,以下のキーワードについて,理解し,直観的に説明出来る(その結果を利用できる)必要があります(逆にいえば,大学院入学時点で,これらを,何も見ないで数学的に証明できる必要まではありません).
- 正規分布,ロジスティック分布,ポアソン分布,二項分布
- 母集団と標本,母平均と標本平均,大数の法則,中心極限定理
- 点推定,区間推定,差の検定
- 最小二乗法,最小二乗推定量の性質,不均一分散,系列相関
- 交差項,ダミー変数
- ロジットモデル,線型確率モデル
- 固定効果モデル,差の差分析法,操作変数法
すなわち,高度な知識は必要ありませんが,学部で2単位(~4単位)の統計学と4単位の計量経済学を履修済で,それらの内容と因果推論の近年の考え方が身に付いていることが必要です.入学後に,これらを学ぶ機会はありますが(入学後に授業を履修して統計学・計量経済学を学ぶことを強く推奨し,ほとんどの場合義務づけていますが),それらは,より正確かつより本質的な理解を得る場と位置付けて下さい.これらの内容を全く勉強せずに修士課程に入学すると,論文を読めず,授業にもついてこられません.従って,以下の文献案内を参照して,入学前に,基本的な知識と考え方が身に付いているか確認し,不足分を補っておいて下さい.
統計学
大学の統計学の授業で使われている教科書であれば,それほど大きな差はないはずなので,既に持っている教科書があるならば,それを利用して下さい.何も持っていない場合は,修士課程「統計基礎」の授業で,それぞれ教科書と参考書に指定されている大屋(2020)と大屋・各務(2012)を買うと良いでしょう.これらが難しい場合は藪(2012)を,もっと演習問題を解いて理解を確かめたい場合は白砂(2007)を利用すると良いかもしれません.
- 大屋幸輔(2020)『コア・テキスト統計学 第3版』新生社(10章までが修士入学時に要求する範囲.なお10章で扱う回帰分析については以下の計量経済学の教科書で本格的に学んで下さい)
- 大屋幸輔・各務和彦(2012)『基本演習 統計学』新生社.
- 藪友良(2012)『入門 実践する統計学』東洋経済新報社.
- 白砂堤津耶(2015)『例題で学ぶ初歩からの統計学 第2版』日本評論社.
計量経済学
私は山本(1995)で勉強をしました.現代であれば,また経営学の定量的な論文を読めるようになることを第1の目標として計量経済学を勉強するのであれば,山本(2015)か藪(2023),鹿野(2015)がお勧めです(論文を読めるようになるだけでなく,自分で定量分析を行うのであれば,またその際にStataを使うなら,田中(2015)も手元にあると便利です).導出過程をきちんと確認したい場合,谷崎・溝渕(2023)を参照して下さい.経営戦略論・経営組織論ではあまり使いませんが,時系列分析も学びたい場合には,黒住(2016)があります.これらが難しい場合や演習問題を解いて理解を確かめたい場合,白砂(2007)を利用して下さい.
- 山本拓(1995)『計量経済学』新世社(第2版は,山本拓(2022)『計量経済学 第2版』新世社)。
- 山本勲(2015)『実証分析のための計量経済学——正しい手法と結果の読み方』中央経済社。
- 藪友良(2023)『入門 実践する計量経済学』東洋経済新報社.(サポートページへのリンク)
- 鹿野繁樹(2015)『新しい計量経済学:データで因果関係に迫る』日本評論社.
- 田中隆一(2015)『計量経済学の第一歩——実証分析のススメ』有斐閣。
- 谷崎久志・溝渕健一(2023)『計量経済学』新世社.
- 黒住英司(2016)『〈サピエンティア〉計量経済学』東洋経済新報社。
- 白砂堤津耶(2007)『例題で学ぶ初歩からの計量経済学 第2版』日本評論社(瞿強译(2012)『通过例題学习计量经济学』中国人民大学出版社)(特に第6章までが修士入学時に要求する範囲です).
英語の場合は,以下のStock & Watson (2014)か,Wooldridge (2015)を私は使ったことがあります.ただし,いずれも分厚いため,修士論文で定量分析を行う(可能性がある)学生は,そのための分析を始める段階(M2の春)までに読破すれば問題ありません.
- J. H. Stock, and M. W. Watson (2014) Introduction to Econometrics, Pearson Education, updated 3rd edition(宮尾龍蔵訳『入門計量経済学』共立出版、2016年).
- Jeffrey M. Wooldridge (2015) Introductory Econometrics: A Modern Approach, 6th Edition. South-Western, Cengage Learning.