研究生・大学院生の外部からの受け入れについて

1.     研究生・修士・博士共通

はじめに:研究生と大学院生の応募と受け入れについて

  • 渡辺は,大阪大学大学院経済学研究科経営学系専攻で大学院生・研究生の研究指導を行っています.また,大阪大学経済学部でも学部生・研究生の研究指導を行っています(以下では,大阪大学大学院経済学研究科経営学系専攻や大阪大学経済学部など私が研究指導を行っている課程を,弊所と呼ぶことがあります).
  • 渡辺研究室では,研究生・大学院生の受け入れを積極的に行っています.
  • ただし,私の元には,年間,百数十件の受入依頼や応募が届いています(その中には,宛先だけ変えて,あとはコピー&ペーストで,メールアドレスを公開している教員に対して手当たり次第に送られたと思われる受入依頼のメールがかなりの数含まれます).
  • そのため,全ての人に対して,個別に対応することは出来ませんので,以下の指示を良く読んでから連絡・応募をして下さい.
  • 以下に記載するのは,外部から大阪大学大学院経済学研究科へ進学して,渡辺を指導教員にすることを検討している人に対するメッセージです.既にあなたが大阪大学大学院経済学研究科の大学院生であり,指導教員の長期外国出張や退職,もしくは,あなたの研究テーマ変更などの理由により,指導教員を私に変更することを考えている場合は,以下によらず,柔軟に対応します.早めに相談して下さい.

渡辺を指導教員とした場合に想定される研究について

  • 大阪大学大学院経済学研究科に入学した場合,研究生・修士・博士,どの課程においても研究を行います.研究生はその名の通り研究を行います(実際にはすぐに研究を行うことは出来ない場合がほとんどなので,研究に必要な領域的な知識と方法論の学習をした上で,研究を行います).修士課程のうち,「経営研究コースでは研究者養成を主目的とし」ています.ビジネスコースは「企業の企画・調査部門などで活躍する高度専門的職業人の養成」を目的としていますが,「研究を完成していく体系的なカリキュラム」となっています.また修了にあたってビジネスコースの場合,「課題研究レポート」をもって修士論文の提出に代えることが出来ますが,課題研究レポートにおいても,修士論文と同等かそれに準じる研究水準であることが要求されます.要するに,いずれのコースであったとしても研究志向の大学院だということです.これらについて詳しくは,経済学研究科の教育目標および各ポリシーのページを参照して下さい.経済学研究科の3ポリシー(ディプロマポリシー・カリキュラムポリシー・アドミッションポリシー),またその中でも特に経営学系専攻(学位プログラム:経営学系)の3ポリシーは必読です.また修士論文や課題研究レポートで要求されていることについては,学位論文に係る評価基準のページも参照して下さい.
  • 入学時点で,研究を行い論文を執筆した経験がそれほど豊富でなくても構いませんが,しかし,研究や論文にこれまで全く触れたことがないようだと困ります.
  • 私が専門とする領域の場合,研究成果は主に,学術雑誌に掲載された論文(学術論文),もしくは(特に日本では)学術書の形態で発表されます.
  • 学術雑誌として,私が専門とする領域でトップジャーナルとされているのは,Administrative Science Quarterly (ASQ), Academy of Management Journal (AMJ), Organization Science (OS), Strategic Management Journal (SMJ)などです.
  • 日本語の場合は,『組織科学』や『日本経営学会誌』が代表的な雑誌です.
  • そのため私を指導教員として受け入れを希望する場合,(教科書やビジネス書だけでなく)これらの雑誌に掲載された論文に目を通したことがあり,研究とはどのようなものか少しはイメージを持っていることが前提となります.
  • どの論文から読んでみれば良いか分からなければ,賞を受賞した論文を読んでみても良いかもしれません.ASQAMJSMJ,『組織科学』『日本経営学会誌』の各賞のページへリンクを貼っておきます.
  • 「このような研究がしたい」と思える論文(あなたがお手本とする論文)を見つけることが出来れば,研究を楽しく進められるのではないでしょうか.

研究指導可能な領域・方法・対象

  • 経営学には様々な領域・方法が存在しますが,私はそれらの中でも特に,コーポレート・ガバナンスが経営戦略に与える影響について,経営組織論の知見を援用しながら,アヴェイラブルデータ(観察データ,2次データ)を用いた定量研究を主に行っています.
  • 私が指導教員としてあなたに合っているかを考える際には,以下の点を判断材料にして下さい.
  • 私を指導教員とするからといって,無理にあなたの研究を私の研究に似せる必要は全くありません.研究テーマは,およそ経営戦略論か経営組織論にかかわるものであれば,受け入れにおいて,特段の制約はありません.研究方法は,研究生・修士課程の学生においては,アヴェイラブルデータを用いた定量分析だけでなく,定性研究の指導も行います.
  • ただし,質問票調査(アンケート)を用いた研究は指導することが出来ません.既に研究の問いと仮説が明確になっており,それを検討するには質問票調査が最適な手法である場合は,他の教員(他大学を含む)を検討して下さい.私の研究室に配属された場合,アヴェイラブルデータで仮説をいかに検討するかを考えていくことになります.
    • なお,私のこれまでの経験では,大学院新入生に対して,研究方法として質問票調査を選択した理由を深く聞いてみた結果,以下のように感じられるケースが何度かありました.①まだ学術論文を読んだ経験が十分でなく,調査方法の勉強も足りないために,アンケート以外の方法だとイメージが沸かず,それゆえ言わば消極的な選択の結果として,アンケートをやると答えている.②一般に利用可能なデータとしてどのようなデータが存在するのか知らない(十分調べていない)ためにアンケートでデータを収集するしかないと誤解している(ただし,もちろん,質問票調査でしか出来ない研究も多数あり,適切な理由で質問票調査を選んでいる人も多数います).以上のことから,一般論としては,入学前・入学後にかかわらず,どのような方法・データが存在するのかにも注目して論文を読んだり,勉強を進めると良いと考えています.その結果としてアヴェイラブルデータで出来そうな研究計画をあなたが作成されたなら,私はあなたを歓迎します.たぶんあなたが今,考えている以上に,アヴェイラブルデータで出来る研究は幅広いです.
  • 私があなたの指導教員にふさわしいか考えてもらう上でも,入学後にあなたが私から適切な指導を受ける上でも,私がどのような研究をしているのか少しだけで良いので知っておいてもらうことが必要だと考えています.そのため私を指導教員として希望する場合,次の2つの論文を両方とも既に読んでいることを強く希望します.
    • 渡辺周(2024)「エージェンシー理論におけるエージェンシーの偏:経営者の認知・情報処理に注目した企業統治論へ向けて」『日本経営学会誌』54号, pp. 65-79.
    • 渡辺周(2017)「強い監視による看過の増幅:コミットメント・エスカレーションに役員が与える影響」『組織科学』Vol. 50, No. 4, pp. 54-65.

研究指導に関してその他

  • 入学後は,フルタイムの学生であることを前提に指導を行います.授業やゼミは平日の昼間に開催します.履修する授業についても,あなたの研究テーマ・方法に応じて相談した上で決定します.それ以外の時間の使い方・配分について細かく指導することはありませんが,授業とその準備,研究に相当な時間がかかるので,学業に専念出来る環境にいなければ,継続は困難です.
  • 私は「面白い」という言葉を,Davis (1971)の意味で用います.私が研究指導をする際には,「面白い」現象を見つけ,それを問いとすることを推奨しています(推奨であって必ずしも従う必要はありません.実際にこうしたスタイルで研究をするのは,指導学生の約半数です.ただし自己満足ではなく,学術的な貢献のある論文となるよう指導し,またそれを要求しています).

2.     研究生

受け入れについて

  • 研究生としての受け入れを希望する場合は,研究科のホームページを見て,出願要項の指示に従って下さい.
  • 私は,合格前に,応募者本人と直接メールでやりとりすることはしていませんので,私に直接メールを送ってきても一切返信をしません.

入学後の指導について

  • 研究生には,学部ゼミか,大学院ゼミのいずれかに出席してもらい,ゼミの中で研究指導を行います(いずれのゼミに出席してもらうかは,これまでの研究経験などをもとに,相談の上,決定します).
  • 研究を行うのに必要な知識を獲得するために,履修すべき授業などについても,指導と助言を行います.

修士課程への進学を目指して,学部研究生として秋(10月)の入学を希望する場合

  • 以下の2点に注意して下さい.
  • 弊所では,学部生も修士学生も4月入学のため,カリキュラムもそれを前提に組まれています.10月入学の場合,年度の途中からゼミに加わることになるため,専門分野と研究の進め方について,他の学生と一緒に指導を受けられるだけの前提知識が入学時点で必要です.
  • 研究生としての受け入れは,大学院への合格を約束するものではありません.特に,10月に研究生として入学する場合は,大学院の冬季入試までの期間が短いため,研究生を半年で修了して阪大の大学院へ進学することを計画していたとしても,あなたの思い通りにならない確率が相対的に高くなります.この点を予め考慮に入れた計画を立てて下さい.

3.     修士課程

受け入れについて

  • 修士課程に入学し,私を指導教員にすることを検討している場合は,まず大学院の入試に合格して下さい.入試の前に,私に事前に連絡する必要は全くありません.
  • 修士課程の場合,入学直後(4月頭)に,指導教員を決めます.私を指導教員として希望する学生数が,教員間の申し合わせの人数以下の場合,全員を大学院ゼミ生として受け入れます.希望者数がそれを上回る場合は,以下に記載する「修士入学時点で必要な知識」を備えているか判断するテストを行い,それで一定以上の点数をとった学生を受け入れます(全員が良い点数をとれていれば,全員を受け入れます).
  • 修士課程修了後に,博士課程へ進学するのではなく,就職する予定の学生も受け入れます.ただし,就職活動のために研究がしばらくの間ストップしたり,授業やゼミを複数回休んでしまうと,修了が困難になるので,就職活動を行うのであれば,大学と両立しようとする強い意志と計画性が必要です.

 

修士入学時点で必要な統計学・計量経済学の知識について

 私の領域におけるほとんどの論文は,定量的な手法を用いた仮説検証型で書かれています.経済学研究科経営学系の他のかなりの領域においても同様です.そのため,あなた自身は定性的手法で研究を行うのだとしても,統計学・計量経済学の一般教養・大学学部レベルの知識がなければ,論文を理解出来ず,授業についてこられません(注:量的分析で用いられる技法は年々高度になっているため,ここで挙げるレベルの知識だけだと,分析を完璧に理解したり,分析を遂行したりすることは多くの場合,難しいですが,これらの知識さえなければ,何をやろうとしているかのイメージさえつかめず,直感的に理解することさえ難しいだろうということです).

 例えば,思いつくままに列挙するならば,以下のキーワードについて,理解し,直感的に説明出来る(その結果を利用できる)必要があります(逆にいえば,大学院入学時点で,これらを,何も見ないで数学的に証明できる必要まではありません).

  • 正規分布,ロジスティック分布,ポアソン分布,二項分布
  • 母集団と標本,母平均と標本平均,大数の法則,中心極限定理
  • 点推定,区間推定,差の検定
  • 最小二乗法,最小二乗推定量の性質,不均一分散,系列相関
  • 交差項,ダミー変数
  • ロジットモデル,線型確率モデル
  • 固定効果モデル,差の差分析法,操作変数法

  すなわち,高度な知識は必要ありませんが,学部で2単位(~4単位)の統計学と4単位の計量経済学を履修済で,それらの内容と因果推論の近年の考え方が身に付いていることが必要です.入学後に,これらを学ぶ機会はありますが(入学後に授業を履修して統計学・計量経済学を学ぶことを強く推奨し,ほとんどの場合義務づけていますが),それらは,より正確かつより本質的な理解を得る場と位置付けて下さい.これらの内容を全く勉強せずに修士課程に入学すると,論文を読めず,授業にもついてこられません.従って,以下の文献案内を参照して,入学前に,基本的な知識と考え方が身に付いているか確認し,不足分を補っておいて下さい.

 

因果推論の基本的な考え方

  • 以下のうち,伊藤(2017)と中室・津川(2017)は必読です.それ以外の文献も是非一読をお勧めします.
  • 必読
    • 伊藤公一朗(2017)『データ分析の力:因果関係に迫る思考法』光文社.
      • 以下の翻訳版を利用しても良いです.
      • 王美娟譯(2018)『數據分析的力量:Google, Uber都在用的因果關係思考法』臺灣東販
      • 전선영(2018)『데이터 분석의 힘 : 그 많은 숫자들은 어떻게 전략이 되는가』인플루엔셜
    • 中室牧子・津川友介(2017)『「原因と結果」の経済学:データから真実を見抜く思考法』ダイヤモンド社.
      • 以下の翻訳版を利用しても良いです.
      • 李其融譯(2019)『"因""果"經濟學:數據氾濫時代, 不可或缺的商業教養』
      • 윤지나(2018)『원인과 결과의 경제학 : 넘치는 데이터 속에서 진짜 의미를 찾아내는 법』
  • それ以外のお勧め
    • 久米郁男(2013)『原因を推論する:政治分析方法論のすゝめ』有斐閣.
    • 森田果(2014)『実証分析入門:データから「因果関係」を読み解く作法』日本評論社。
    • 松林哲也(2021)『政治学と因果推論』岩波書店(特に第9章・第10章は類書にない記述ですので,この最後の2章まで読んで下さい).

 

統計学

 大学の統計学の授業で使われている教科書であれば,それほど大きな差はないはずなので,既に持っている教科書があるならば,それを利用して下さい.何も持っていない場合は,修士課程「統計基礎」の授業で,それぞれ教科書と参考書に指定されている以下の2冊を推奨します.これらが難しい場合は藪(2012)を,もっと演習問題を解いて理解を確かめたい場合は白砂(2007)を利用すると良いかもしれません.

  • 大屋幸輔(2020)『コア・テキスト統計学 第3版』新生社(10章までが修士入学時に要求する範囲.なお10章で扱う回帰分析については以下の計量経済学の教科書で本格的に学んで下さい)
  • 大屋幸輔・各務和彦(2012)『基本演習 統計学』新生社.
  • 藪友良(2012)『入門 実践する統計学』東洋経済新報社.
  • 白砂堤津耶(2015)『例題で学ぶ初歩からの統計学 第2版』日本評論社.

計量経済学

 私は山本(1995)で勉強をしました.現代であれば,また経営学の定量的な論文を読めるようになることを第1の目標として計量経済学を勉強するのであれば,山本(2015)か藪(2023),鹿野(2015)がお勧めです(論文を読めるようになるだけでなく,自分で定量分析を行うのであれば,またその際にStataを使うなら,田中(2015)も手元にあると便利です).導出過程をきちんと確認したい場合,谷崎・溝渕(2023)を参照して下さい.経営戦略論・経営組織論ではあまり使いませんが,時系列分析も学びたい場合には,黒住(2016)があります.これらが難しい場合や演習問題を解いて理解を確かめたい場合,白砂(2007)を利用して下さい.

  • 山本拓(1995)『計量経済学』新世社(第2版は,山本拓(2022)『計量経済学 第2版』新世社)。
  • 山本勲(2015)『実証分析のための計量経済学——正しい手法と結果の読み方』中央経済社。
  • 藪友良(2023)『入門 実践する計量経済学』東洋経済新報社.(サポートページへのリンク
  • 鹿野繁樹(2015)『新しい計量経済学:データで因果関係に迫る』日本評論社.
  • 田中隆一(2015)『計量経済学の第一歩——実証分析のススメ』有斐閣。
  • 谷崎久志・溝渕健一(2023)『計量経済学』新世社.
  • 黒住英司(2016)『〈サピエンティア〉計量経済学』東洋経済新報社。
  • 白砂堤津耶(2007)『例題で学ぶ初歩からの計量経済学 第2版』日本評論社(瞿強译(2012)『通过例題学习计量经济学』中国人民大学出版社)(特に第6章までが修士入学時に要求する範囲です).

 

英語の場合は,以下のStock & Watson (2014)か,Wooldridge (2015)を私は使ったことがあります.ただし,いずれも分厚いため,修士論文で定量分析を行う(可能性がある)学生は,そのための分析を始める段階(M2の春)までに読破すれば問題ありません.

  • J. H. Stock, and M. W. Watson (2014) Introduction to Econometrics, Pearson Education, updated 3rd edition(宮尾龍蔵訳『入門計量経済学』共立出版、2016年).
  • Jeffrey M. Wooldridge (2015) Introductory Econometrics: A Modern Approach, 6th Edition. South-Western, Cengage Learning.

4.     博士課程

後日,加筆します.